KBS京都で放送中の『谷口流々』。
谷口キヨコが、京都を中心に活躍する人々の仕事現場に足を運び、十人十色の人生哲学を紐解いていきます。
2023年8月12日(土)の放送では、フラメンコダンサー・宇根由佳さんに話を伺いました。
Profile:フラメンコダンサー・宇根由佳さん
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宇根由佳さんは、下京区にあるフラメンコ教室『エセンシア』の代表。
本場スペインで開催されたフラメンコの国際コンクールで優勝経験を持つフラメンコダンサーです。
フラメンコの魅力
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まずはスタジオで、キレのある情熱的なフラメンコを披露してくれた宇根さん。
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「フラメンコというのは、三位一体。歌い手・踊り手・ギタリストが呼吸を合わせることが大事なのでレッスン時も、実際にギタリストに来てもらっています」と宇根さん。
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そして「私は、フラメンコにおいて踊り手は指揮者だと思っています。踊り手の呼吸によって、演奏や歌の雰囲気も変わってきます」と、フラメンコの醍醐味について教えてくれました。
フラメンコの世界へ
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幼少期から「フラメンコダンサーになりたい!」と思っていたわけではないという宇根さん。しかし、幼い頃からジャズやヒップホップといったダンスや、様々なスポーツの経験はあったといいます。
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宇根さんとフラメンコとの出会いは、19歳の頃。中学からの友人が「何かダンスをしたい。フラメンコをやってみたい」と宇根さんに話したことがきっかけで、フラメンコを見に行ってみることになったのだそう。
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当時の宇根さんはフラメンコに対して、“口にバラを咥えて「オレ!」と言いながら踊っているダンス”というぼんやりとしたイメージしか持っていませんでした。
しかし、一度生で見てみようと足を運んだところ、その印象は一変。そのかっこよさと湧き上がるようなリズム感に一瞬で惹かれ、フラメンコの世界にのめり込んでいきました。
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25歳の頃、本場のフラメンコを見るために、フラメンコの魅力を知るきっかけをくれた友人とともにスペインを訪れます。
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そして、マドリードにあるフラメンコの総合学校で、世界中から集った生徒たちと個性的な先生たちともにフラメンコを学ぶことになりました。
午前中は語学学校で勉強、昼過ぎからフラメンコの練習という、スペイン文化にどっぷりと浸かる日々をおよそ2カ月間過ごしたのだそう。
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帰国後、舞踊団のオーディションを受けないかと声がかかり、宇根さんは意気揚々と参加することに。オーディションには見事合格しますが、意外にもその際にかなり厳しいアドバイスがあったといいます。
宇根さんは当時を「留学を経てなんでも知っているような気になっていたのを、見透かされたのだと思います」と振り返ります。厳しいアドバイスのおかげで地に足をつけて、それからはフラメンコにさらに真摯に向き合えるようになったのだとか。
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その後、今度は宇根さんにフラメンコ講師のオファーが舞い込みます。また、日本で開催されているフラメンココンクールの存在も知り、積極的に参加しました。
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しかし、日本フラメンコ協会が主催する新人公演『フラメンコ・ルネサンス21』への出演の際の自分を、宇根さんは「まだ少し調子に乗っていたところがあって。賞を獲るためにあの手この手を考えた結果、上半身だけで踊りがちになってしまうなど、フラメンコの本質を見失っていきました」と顧みます。
そこから、宇根さんは数年間のスランプに苦しむことになるのでした。
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「どうしよう」と、悶々と悩む日々。自分の踊りが嫌になり、朝仕事に行くのも辛くなるほどだったと言います。そんな中で、ふと思い至ったのが「原点に帰ろう」という考えでした。
その時から、自分の踊りを一から見直し、練習に励むことができるようになりました。
そして2010年、見事『日本フラメンコ協会 第19回新人公演ソロ部門奨励賞』を受賞します。
スペインで世界一へ
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スペインのへレス・デ・ラ・フロンテーラでは、世界中から人々が集う大きなフラメンコのコンクール『フラメンコ・プーロ国際コンクール』が開催されます。2020年、宇根さんはそのコンクールで特別賞を受賞しました。
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「次は優勝だ!」と意気込む宇根さんでしたが、その頃から新型コロナウイルスが世界中で猛威を振るい始めます。その影響で3年間ほど、海外に行くことができなくなってしまいますが、その際に宇根さんにとって、大きな出会いがありました。
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それは、スペインの若手フラメンコダンサーとしてトップを走るパウラ・コミトレさんという恩師との出会いでした。
なんとパウラさんはコロナ禍の中、リモートで宇根さんを熱心に指導してくれたのです。そして2023年2月、その努力が実を結び、宇根さんは『フラメンコ・プーロ国際コンクール』にて、ついに優勝を果たします!
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身体トレーニングしたり、フラメンコを一から勉強し直したりと、できる努力はとことんしていたという宇根さん。「優勝した時の演技では、どれだけ踊っても身体が疲れず、呼吸も乱れませんでした」と話します。
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フラメンコは自由なものでありながら、正確なリズムで踊ることや、ギターや歌と動きを合わせることといった厳密なルールも存在します。
「それらを守った上で、いかに自分を表現できるかが大切なのですが、その日の舞台では、今まで培ってきた経験や様々な出会い、その場の空気感などが全て合わさって、まるでサーフィンをしているかのように波に乗って自分らしく踊ることができたんです」と宇根さん。
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「フラメンコを続けることで、人間の身体の可能性は果てしないということに気が付くことができました。これからは、その可能性をもっと掘り下げていきたいです。そして物事の本質は、目先の悩みの中にではなく、実はもっと近くにあるということを、フラメンコを通じて伝えていけたらなと思います」と、宇根さんはこれからについて語ってくれました。
宇根さんを表すことば
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今回の“宇根さんを表すことば”は『リズムにのる』です。
「時には調子に乗ったこともあった」と振り返った宇根さんでしたが、その後の努力でフラメンコの真の楽しさと本質に気がつき、本当の意味で“リズムにのる”という体験をされたのですね。
フラメンコと向き合い続ける宇根さんの、今後の活躍が楽しみですね!
文/ななえ
【画像・参考】谷口流々(毎週土曜日9:30~10:00) – KBS京都
※この記事は、2023年8月12日(土)放送時点の情報です。最新の情報は各店舗・施設にお問い合わせください。